niwakaの“あくまで個人の感想です。”

その名の通り熱しやすく冷めやすい"niwaka"が、徒然なるままに色々なことを書き散らします。

ep01-04

 食堂に入るとまず目に入ったのが、クロスがかけられた、木目調が素晴らしい長テーブルだった。誰もいないところを見ると、私たちが最初のようだ。左に目をやるとそこには後ろに酒瓶が並んだカウンターとマルチプレーヤーがあり、プレーヤーからは定時のニュースが流れていた。今夜からこの一帯が吹雪くことを伝えており、確かに外では雪が舞っていた。
「あちゃー、こりゃ明日のスキーは無理っぽいかなー?」
「えー、部屋に閉じこもって何すればいいのよー」
 適当な席に座ると、笹谷さんが入ってきた。私たちを見るとぺこりと頭を下げると、私たちからは離れた席に座った。まだ引きずっているようだ。
「ケータイでゲームできるけどパケット代がなー。普段使わないから……」
 次に入ってきたのはいかにも、スキーをしにここまできました、という風体の男二人、女二人の四人組だ。髪を染めたりピアスをしたりしているが、個性をだそうとして結局ステレオタイプに落ち着いた感がある。わいわいとおしゃべりしながら席に着き、わいわいとたわいのない話をしている。
「かよのー、聞いてるー?」
 次はそれぞれ見た目二十代のカップルだ。全身からたくさんのハートマークを振りまいている。あー暑苦し
「かよのっ!」
「えっええっ、ななな、何?」
「もー、何ボーッとしてんのよ」
「ごめんごめん。なんの話だっけ」
「スキーができなかったら何をしようかっていう話だよ」
 私が考えていると、奥から黒川さんと初めて見る男女が料理を運んできた。玉葱を煮込んだコンソメスープ、温野菜と鶏肉たっぷりのシチュー、ふわっとした黒パン。シンプルでいながら栄養豊富なメニューだ。
「お代わりはありますし、油が気になる方には烏龍茶もご用意いたします。これは食事の合間に飲むことをお勧めいたします。アルコール類は赤と白のワインも用意しています」
「すいませーん、カウンターには座っちゃいけないんですかー?」
 四人組の一人、茶髪の男性が訊いた。
「こちらは夕食後に利用可能になりますので、ご利用されたい方は夕食を少なめに。ご希望のカクテルと肴をご用意しますよ」
「あの、すいません」
 今度は笹谷さんだ。
「一人、来ていないみたいなんですけど」
 確かに彼女の隣には一人分の食器があり、その席には誰もいない。黒川さんがテーブルに座っている私たちの顔を見て、誰が来ていないか確認する。
「えーと、賀宮(かみや)さんか。谷野(やの)さん、ちょっと様子を見てきてもらえないか。では、皆さんはこのまま食事を始めてください」
 カチャカチャ、と食器どうしがあたる音が響きだした。
「うっわー、おいしー」
裕子が歓声を上げる。
「本当だ、おいしいねー」
「この黒パンも甘くておいしー! もうコンビニのパンなんか食べられないよー」
「ここの黒パンはね、そこで給仕している香葉村(かわむら)さんがここで生地を練って焼いてくれるから、とてもおいしいのよ」
 向かいに座ったカップルの女性が、四人組の一人に赤ワインを注いでいる男性を指差して教えてくれた。
「へー、そうなんですかー。えーと……」
「東里(とうさと)。東里霧子(きりこ)。よろしくね」
「私、飾磨裕子です。こっちは友達の齊木かよの。スキーをしに来ました」
「あら、そうなの。大学生?」
「はい、一年生です」
「大学生活はできるだけ楽しんでおいたほうがいいわよ。後半になってから後悔しても後の祭りなんだから」
「おいおい、人生の後輩を不安がらせるようなことを言うなよ。あ、俺は綾瀬(あやせ)類(たぐい)だ。よろしく」
 そう言うと綾瀬氏は手を出してきた。
「はじめまして」
「はじめまして」
 とりあえず握手を返したけれども、彼女がいる前で初対面の女性に握手を求めるなよ。
「ところで、食事を始める前に黒川さんが言ったこと、覚えてる?」
「え~と……」
 裕子が思い出せないようなので、代わりに私が答える。
「確か、ご希望のカクテルと肴をご用意しますって言ってましたね。でも私たち、まだ未成年なので」
「ところが、黒川さんは未成年の客やお酒がダメな客向けに、ノンアルコールのカクテルを出してくれるんだよ」
「へー!」
 裕子が頓狂な喚声を上げた。恥ずかしいなあ、もう。
「だから」
「きゃははははっ!」
「だぁははははっ!」
「ははははははっ!」
「はっはーはー!」
 四人組がそれぞれに品のない笑い声を発したのだ。
 目を戻すと、綾瀬さんはしかめっ面をして四人組を見ている。そして、
「多少の下品には目を瞑ることはできるけど、あそこまで品がないのは、どうも我慢できない」と言った。
「まあいいじゃない。彼らも若いのよ」
 東里さんが綾瀬さんをたしなめる。
「ありゃあ、精神が幼いって言うべきだよ。食事中にあんな大声で笑うなんて、子供だよ、子供。だいたい――」
「おい」
 声がした方を見ると、四人組の一人が不快な顔をして綾瀬さんを睨みつけている。どうも、綾瀬さんの声が聞こえて、そしてそれが気に入らなかったようだ。
「俺たちが餓鬼ってのは、どういうことだよ?」
「そのままの意味だけど?」
「んだと、テメェ――」
 綾瀬さんの言葉を挑発と取ったのか、男が近寄ってきた。綾瀬さんも席を立つ。受けて立つ気か。
「ちょっと、戻ってきなよー」
「そんな小父さんに手を出してどうすんのさー」
 他の仲間が声をかけるが、本気で心配している様子ではない。むしろこの状況を面白がっているようだ。
 男が綾瀬さんの襟を掴もうとした瞬間。
「いでででででででででっ!」
 綾瀬さんが男が出した腕を先に左手で掴むと、空いた右手で親指を思い切り捻ったのだ。
「は、放せっ、テメェ!」
「相手に挑むときは、まず相手の力量を見極めてからにするんだな。特に初対面の相手には」
 そう言って、綾瀬さんは両手を放した。男は掴まれた部分をさすりながら席に戻る。
「すっごーい! 綾瀬さんって格闘技でもしてるんですかあ?」
 裕子が目をキラキラさせて訊いた。
「いや、簡単な護身法を少しかじった程度だよ。明らかな戦力差がある相手からは即逃げるさ」
 これ以降は特に大きなこともなく、静かに食事は進んでいった。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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