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風月文語の適当徒然

風月文語(ふうげつ ぶんご)です。適当に徒然なことを記事にします。

掌編 「魍魎」

 ジーーーーーーーーーーーーーーーー…………

 ……。
 …………。
 ………………。
 ……………………。
 ……………………暑い。

 線路から、ゆらぁり、ゆらぁり、と陽炎が立っている。
 無風のホームに響く蝉の声が耳に障る。
 粘っこい唾液が体内の水分の少なさを強調する。
 体臭が気化した汗と共に鼻に入る。
 吹き出た汗が衣服を濡らす。
 五感からの情報が不快感を強くする。
 電車はまだ来ない。
 一人で佇んでいると、だんだん頭が、ぼうっ、としてくる。
 視線が線路に固定されていく。
 じっ、と線路を見る。
 だんだんと、頭が向こう側へ下がっていく。時折頭を戻すが、また、だんだんと下がっていく。
 足が進む。陽炎のように、ゆらぁり、ゆらぁり、と進む。

 向こう側へ。向こう側へ。向こう側へ。向こう側へ。

 あちら側へ。あちら側へ。あちら側へ。あちら側へ。

 肩を摑まれた。気が付くと、片足が黄色い線のすぐ側にあった。先ほどとは違う汗が、どっ、と吹き出た。
「気をつけなさい。魍魎に引き込まれるわよ」



「もう……りょう?」
 肩を掴んだのは、白いワンピースの女性だった。同様に白い日傘を差している。
「魍魎。詳しいことは誰も知らないけど、魍魎、という名称は知られている存在」
 急に弱い風が吹いて、彼女の黒く長い髪を靡いた。
「魍魎は境界に潜んでいる。昔は水辺や辻がそうだったけど、今はそれらに加えて、人や車両が通る所が境界になっている。理由がわからない飛び込み自殺は、魍魎が人を惑わすから」

 ………………電波?

「あなた、線路に近づいていく間、何を考えていた?」
「え、いや。何も考えていなかったけど」
「魍魎は人に似た話し声で、近づいた人を惑わす。魍魎の声を耳にした人は、頭が朦朧として感覚を失い、ふらふらとその声がする方へ進んでいってしまうの。さっきまでのあなたが、まさしくその状態だったのよ」
「…………」
「魍魎は境界上に潜んでいて、人の脳や肝を喰らうために人を惑わしてあちら側に引きずり込む。こういう場では、常に用心を怠らないように心がけなさい」
 ひゅうっ、と一陣の風が吹き、目に何かが入った。慌てて目をこすって取り除いた。
 女性はいなかった。

 蝉の声が。

 ジーーーーーーーーーーーーーーーー…………



 ―終わり―
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テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

返答

コメント、ありがとうございます。
夏はコチラとアチラの境があやふやになる、とよく言われています。
ホームで感じた「気だるさ」「魍魎」に関する情報を化合してみました。

  • 2009/08/05(水) 22:12:32 |
  • URL |
  • public-enemy #quSBhyNc
  • [ 編集 ]

No title

タモリの・・・ほらえーと・・・ホラーっぽい番組!
あれみたい!なんか映像が目に浮かびました
不思議でちょっと怖い感じが良いですね

  • 2009/08/05(水) 19:17:54 |
  • URL |
  • ネモ #LEUra8kw
  • [ 編集 ]

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