niwakaの“あくまで個人の感想です。”

その名の通り熱しやすく冷めやすい"niwaka"が、徒然なるままに色々なことを書き散らします。

ep05-02

 食堂から騒がしい声が聞こえる。空回り気味の大声は、あの茶髪の男のものだ。
 中に入ると、茶髪の男は携帯電話が繋がらないことで黒川さんに無茶な文句をつけている。昨夜男に殴られたセミロングの女性はテーブルではなく隅にあるソファに、元気なく座っている。殴られた頬には湿布が貼られていて、傍らにはショートの女性が心配そうな顔で様子を見ている。もう一人の仲間であるスポーツ刈りは席についてはいるが、落ち着きなく貧乏揺すりをしている。
 東里さんと綾瀬さんはカウンターに座っていた。いや、正確には東里さんは顔をカウンターにつけていた。おはようございまーす、と挨拶すると、綾瀬さんが、おはよう、と挨拶を返してくれた。
「東里さん、どうしたんですか?」
「ん、ただの二日酔い。だから、今香葉村さんに迎え酒用のカクテルを――」
「お待たせ致しました。モーニング・グローリー・フィズです」
 奥から出てきた香葉村さんが、カクテルが入った大きなグラスをカウンターに置いた。
「黒川さんがお客様の相手をしていますので、代わりに作らせていただきました。経験不足なので、お口に合うかどうか」
「あ、いいよいいよ。――一杯は人酒を飲み、二杯は酒酒を飲み、三杯は酒人を飲む。酒に飲まれた人間に気を使うことは」
 そこで東里さんに睨みつけられたので、綾瀬さんは言葉尻を飲み込んだ。
「あ、そうだ、香葉村さん」
「はい?」
「あの、201号室の前を通った時に、変な臭いがしたんですけど」
「201――? えーと、確か、あの部屋に泊まっているのは……賀宮さんか。臭いって、具体的にどのような臭いか、ご説明いただけますか?」
「あー……そのー……」
 うまい言い回しを思いつけない私が言いよどんでいると、
「掃除していないトイレの臭いです」
 裕子が的確で素晴らしい表現をしてくれた。
「はあ……そうですか。トイレが詰まったのかな。わかりました。ちょっと見てきます。その後でまだ降りてこない賀宮さんと笹谷さんを起こしたら朝食です」
 朝食、という言葉に反応したのか、裕子のお腹が、ぐう、と鳴ったので、東里さん以外の四人は吹き出してしまった。
 これで空腹を凌いでください、と渡されたカフェオレをちびりちびり、と飲んでいると、

 がたんっ、どがんっ、ががんっ!

 誰かが階段から激しく落ちた。私を含めて数人がその場に向かうと、階段から落ちていたのは香葉村さんだった。黒川さんが香葉村さんを抱き起こす。
「どうしたんですか、一体」
「あ、あ、あ、」
 口を開けて何か言おうとしてはいるが、言葉になっていない。黒川さんは谷野さんに香葉村さんを預けると二階へ上がった。好奇心で、その場にいた私たちも続く。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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