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風月文語の適当徒然

風月文語(ふうげつ ぶんご)です。適当に徒然なことを記事にします。

ep04-01

「あがり」
 赤のQのペアを出して東里さんは両手を広げた。
 強いですねー、という裕子の褒め言葉を、そんなことないわよ、と軽く流し、キス・オブ・ファイヤーという深紅のカクテルを口にする仕草が、アルコールで赤く染まった顔色と相まって、とても色っぽい。
「しかし、大丈夫なんでしょうか、あの人」
 そう言って綾瀬さんからカードを取る。はずれ。
「怪我自体は大したことはないだろうね。口や鼻からの出血も見られなかったし」
 私から裕子がカードを取る。黒の3のペアを出す。
「それよりも問題は、外出が危険ということで閉じ込められたことで生じる、各人のストレスがどのような影響を及ぼすか、だな」
 裕子から綾瀬さんがカードを取る。眉をちょっと顰める。
「そうねー、さっきの彼らの諍いも、それが原因のようだしねー」
 つまみのチーズを食べながら東里さんが言う。私の番。赤の9が揃ったので出す。
「こういう時、最も心配なのが悪魔のささやきですよね」
 グラスについた水滴を拭いていた黒川さんが、ポツリ、と呟いた。
「なんですか、それ?」
 黒のKを出した裕子が尋ねる。
「一般的に言うなら、邪な考え、ですね。人は今のような特殊な状況下に長く置かれると、精神的に弱くなったり不安定になったりして、普段とらないような言動をすることがある、という話を読んだことがありましてね。普段温厚な人が暴れたり、真面目な人が口汚い言葉を吐いたり、とまるで何かに憑かれたかのように豹変するんだそうですよ」
「ああ、聴いたことがある」
 黒の5を出した綾瀬さんが言う。
「昔は普通の人間が狂気に陥る原因を、憑き物が憑いたから、と考えていた、という話を大学の講座で聴いたな。通り魔事件、という言葉は聞いたことがあるだろう? この通り魔、別称で通り悪魔、通り風、トオリモノ、とも呼ばれるこれらは元々、人の心に憑いて乱心させる憑き物の総称だった、という話だったよ」
「じゃあここから出られるまで気をしっかり持っていないと、憑き物に憑かれてイケナイことをしちゃうかもしれないわねー」
 そう言うと、東里さんは残ったカクテルを飲み干した。
「次は雪国、お願いできます?」
「あれ? 日本語のカクテルなんてあるんですか?」
 興味津々、という顔で裕子が尋ねる。
「ええ、日本人が考案したカクテルもたくさんあるわよ。雪国はその名の通り、雪国の美しさを表現したカクテルね。とっても綺麗よ」
「へー」
 続いて綾瀬さんがホットコーヒーをブラックで、裕子がノンアルコールのブラック・アンド・タン、私は同じノンアルコールのシャーリー・テンプルをそれぞれオーダーした。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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