世界残酷物語 下
近代に入り、文明の発展が一段と進むと、犯罪集団は組織として洗練され、表の社会に強い影響力を持つようになる。一方の個人に目を向けると、かつて貴族や権力者によるものだった、衝動的犯罪や自己実現を目的とする犯罪を行う市民が増加する。貧困や不満だけではない、人を犯罪へと走らせる因子とは――?
下巻は1970年代までの近現代の犯罪史を俯瞰する。そして続く第2部では、犯罪行為の核心である、人を犯罪へと走らせる「暴力の心理」について、これまでの仮説を紹介しつつ、人が暴力に走る過程を考察していく。そのパターンは複数あるが、共通している、つまり歴史を通して変わらないのは、犯罪者とは己の欲望や感情を抑え律しきれない人、だということだ。正義感も暴走すれば犯罪や暴力活動の動機となるように。
逆に言えば、犯罪の抑止とは、欲望や感情を制御する術を身に着けた人を増やすことである。その方法については、本書が参考になるかもしれない。
以下、本書の核心に言及しているため、ネタバレ注意。
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世界残酷物語 上
古代ローマの人たちはコンクリートを活用し、公衆トイレや公衆浴場など優れたインフラストラクチャー(社会基盤)を築いていた。一方で、その歴史は犯罪と暴力と謀略に満ちていた。
ナザレのヨシュアが創生し、後にパウロによって洗練されたキリスト教は、マイノリティ(少数派)の時代は常に排他と迫害に遭っていた。しかし権力を握ると、教皇の地位安定に不都合な相手を異端として排他し迫害した。
18世紀に始まった産業革命は国を富ませた。一方で貧富の差は拡大し、個人による犯罪が増加した。
教科書で学ぶ歴史は「上澄み」。その底には、謀略と暴力と殺戮の歴史が沈殿している。そしてそれらが行われるたびに登場するキーワード「確信人間」と「魔術的思考」。これらへの理解が広まれば、戦争や犯罪の抑止に繋がるのか。
記録され残された史料を元に異色の批評家が綴る"罪"の人類史!
上巻は古代・中世・近代までを収録。原著の刊行は1984年なので、それ以降に発見された史料によって更新された史実もあるので、そことの相違には注意が必要。
「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるが、本書は「事実は小説よりも残酷なり」を示している。本書でまとめられている史実に比べ、創作で描かれる残酷行為がいかに生易しいか! 逆に言えば、創作における悪役や悪徳の描写について、本書は格好の参考書になるだろう。