クトゥルー〈12〉 (暗黒神話大系シリーズ)
クラーク・アシュトン・スミスが創作したツァトゥグアと無形の落とし子の造形は、スミスからツァトゥグアを教えてもらったラヴクラフトも気に入ったようで、自作に登用するだけでなく、作家仲間にもその使用を奨励するほどでした。
スミスの作品でツァトゥグアらが初登場するのは今巻に収録されている『サタムプラ・ゼイロスの物語』ですが、ラヴクラフトはそれより前に発表した『闇に囁くもの』でツアトゥグアの名前を登場させ、同時期にビショップの代筆をした、今巻に収録されている『墳丘の怪』にもツアトゥグアらとその信仰について描写を挟んでいます。こうした"繋がり"を知ることで、更にクトゥルフ神話を楽しめると思います。
今巻はそんな繋がりを知れる2作品を含む8編を収録。
『アルハザードの発狂』(D.R.スミス/1950)
狂気の世界に陥った詩人、アブドゥル・アルハザードが禁断の知識を記したネクロノミコン。これまで誰も知ることのなかった、アルハザードが発狂するに至った出来事とは――。
『サタムプラ・ゼイロスの物語』(C.A.スミス/1931)
盗賊のゼイロスは盗賊稼業が難しくなったことから、相棒のオムパリオスと共に都市を離れ、獲物を求めてかつて栄華を誇っていた廃都コモリオムに向かう。そこで見つけたのは古の神々の一人、クトゥグアを祀る神殿だった。中に入ると、そこにあったのはクトゥグアの神像と黒黒とした粘性の液体で満たされた大鉢で――。
『ヒュプノス』(ラヴクラフト/1922)
彫刻家のわたしは鉄道の駅で、終生にして唯一の友に出会った。わたしは彼とともに夢の探求をするのだが、ある時を境に友は夢を見ることに恐怖するようになる――。
『イタカ』(ダーレス/1941)
まず、ルーカスが行方不明になった。次いでルーカスが発見された後、ルーカス失踪事件を扱っていた警官のフレンチが疾走する。新聞は他愛もないことを書き散らしたが、それは当事者である警察、つまり我々が事実を一部隠蔽して発表したからだ。だが、今ここに発表しよう。常人であれば受け止めようのない事実を――。
『首切り入り江の恐怖』(ブロック/1958)
作家のぼくは、酒場で出会ったダンに宝探しに誘われる。当日、ダンたちは宝を積んだ沈没船を見つけるが、途中で仲間の死体が海に浮かぶ。首を切断された状態で――。
『湖底の恐怖』(スコラー&ダーレス/1940)
世界博覧会の会場建設のため、埋立工事が進んでいたミシガン湖の湖底から奇妙な化石じみたものが発見される。それは驚くべきことに、だんだんと大きくなり、形状を変化させていくのだ。わたしとホウムズ教授は不安を感じながらもそれを研究室に保管したのだが――。
『モスケンの大渦巻き』(スコラー&ダーレス/1939)
旅行から戻ってきたウォーリックは別人のようだった。人間離れした飛び跳ねるような足取りで歩き、その手は南極の石のように冷たかった。ウォーリックに何があったのか――。
『墳丘の怪』(ビショップ&ラヴクラフト/1929)
オクラホマにあるインディアン由来とされる墳丘は、幽霊の目撃談や探索者の失踪や発狂、異常死など、怪奇譚に事欠かない。それゆえに好奇心から墳丘を訪れた新たな探索者――私は、墳丘の土中から奇妙な金属筒を発掘する。中に入っていたのは、十五世紀に同じように墳丘を訪れたスペイン人による、墳丘の内部に広がる異世界と、そこでの生活を綴った自伝だった――。
以下、少々ネタバレ。
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クトゥルー(11) (暗黒神話大系シリーズ)
1929年。ラヴクラフトはロングに、ある小説の原案を提供しました。それは、自身がかつて見た夢の内容の作品化を試みたもののお蔵入りになっていたものでした。ロングはこれを元に『恐怖の山』を著します。
一方、ラヴクラフトが作品として昇華することができなかった未完の作品は彼の死後、『古の民』という題で公開されるのでした。
今の作家さんも、作品として昇華できなかったネタの提供をし合うようなやりとりをしているんでしょうかね。
11集はその『恐怖の山』を始め、次元をさまようものイオドが登場する『狩りたてるもの』など7編を収録。全体的におぞましい、エグいと思えるものが揃っています。
『深淵の恐怖』(ロウンデズ/1941)
あの日、わたしたちはノードゥンの死体を事故に見せかけて始末した。しかし気がつけば、そのことを覚えているのはわたしだけで、そしてそのきっかけとなる事件を起こした人物は姿を消していた――。
『知識を守るもの』(シーライト/1992)
ウイットニイ博士は、子供の頃から知識の獲得に貪欲だった。全てを知ろうとオカルトの範疇にまで入り込み、ついにはエルトダウンの粘土板に記されている「知識を守るもの」の召喚を試みるのだったが――。
『暗黒の口づけ』(カットナー&ブロック/1937)
ディーンは祖先が建てた古びた屋敷を相続して住み始めた日から、海に関わる夢を見るようになる。その展開は、当初はありふれた内容だったが、やがておぞましいものへと変わっていく。医者に診てもらって帰ってくると、「すぐにその家から離れるべし」という旨の電報が――。
『穿に潜むもの』(ブロック/1937)
身代金目的でギャングに誘拐されたわたし。監禁された地下室は、かつて死体泥棒の罪で裁判にかけられた魔術師が住んでいた廃屋敷の地下にある部屋だった。わたしが、相手が眠りこけたすきを見て逃げ出そうとした時、奥にある鉄扉が軋み開く音がして――。
『狩りたてるもの』(カットナー/1939)
遺産の奪取を目論むドイルは、先の相続人であるいとこのベンスンを殺害しようと彼の元を訪れる。古の存在を召喚しようとしていたベンソンを首尾よく殺したドイルだったが、帰る途中でひどい眠気に襲われて――。
『蛙』(カットナー/1939)
陰惨な魔女伝説が残る屋敷を借りたノーマンは、庭の景観を壊しているという理由で、魔女が封印されているとされる碑を庭から除いてしまう。その晩、庭に目を向けたノーマンが眼にしたのは――。
『恐怖の山』(ロング/1951)
中央アジアからマンハッタン美術館に運ばれてきた象頭神の石像。送ってきた担当者は経緯を報告した直後に変死し、翌日には警備員のおぞましい変死体が発見される。学芸員のアルジャナンはオカルティストのロジャーに助けを求めるが、今度は石像が美術館から消え、マンハッタンで被害者が続出する。はたして、アルジャナンとロジャーは凶行を止められるのか――。
以下少々ネタバレ。
クトゥルー (10) (暗黒神話大系シリーズ)
クトゥルフ神話においては、現界と異界を繋ぐ様々なアイテムが創作されています。
それは本だったり、鍵だったり、宝石だったり、ガラスだったり、掛け時計だったり、ランプだったり。
現代ですと、やはりパソコンやスマートフォンが対象になり得るでしょうか。
使用者の多くは不幸な結末を迎えますが、中には比較的幸福な結末を迎えるものもあります。
暗黒神話大系シリーズの内、なぜか一向に再販されない10集は、そんな異界への窓口となるアイテムが登場する『妖術師の宝石』や『アルハザードのランプ』など7編を収録。
『ファルコン岬の漁師』(ダーレス&ラヴクラフト/1959)
ある日、岬に住む漁師のカンガーが漁の最中、獲物と共に引き揚げたのは、手足に水かきがあり、海の色の体をした人に似たものだった。逃してくれるよう求めるそれに応えたカンガーは数年後に大怪我を負うのだが、仲間が医者を連れてくる間に彼の姿は消えてしまう。彼がいた周囲には、水かきのある足跡が残されていた――。
『妖術師の宝石』(ブロック/1939)
人々をあっと言わせるような幻想的な作品を撮ろうと苦心する写真家のナイルズ。オカルティストのわたしは彼のために、曰く付きの宝石をカメラのレンズ用に加工することを同好の士に依頼する。はたして、そのレンズに映し出されたのは――。
『クラーリッツの秘密』(カットナー/1936)
クラーリッツ家に伝わる、その人物が理解できるようになったときに伝えられる秘密。それは、先祖代々から受け継がれてきた呪いであった――。
『クトゥルーの眷属』(シルヴァーバーグ/1959)
ミスカトニック大学附属図書館で働くマーティは、上司にあたるヴォーリスから秘密のアルバイトを頼まれる。それは、持ち出し禁止の図書を図書館から盗み出す手伝いだった。しかし、欲が出たマーティは彼を裏切って本を持ち逃げする。本の価値に気付いたマーティは売り払う前に、流し読みをしていて目についた、ある旧支配者の召喚を実行してみると――。
『グラーグのマント』(ロウンデス&ポール,ドグワイラー/1941)
ハートリイら4人は気晴らしに出かけた先で、偶然から小屋に隠されていた古書を発見する。そこには宝の在り処と、それを得るための儀式の方法を記した紙が挟まれていた。4人は好奇心から、その場所で儀式を実行すると――。
『アルハザードのランプ』(ダーレス&ラヴクラフト/1957)
作家のウォード・フィリップスは失踪した祖父の死亡宣告日に、祖父の一切の財産を引き継ぐ。その中にあったアラビア風のランプに火を入れると、室内に異界の風景が映し出されて――。
『チャールズ・デクスター・ウォード事件』(ラヴクラフト/1927)
精神病院の病室という密室から姿を消した患者、チャールズ・ウォード。彼は何故に精神病院に入ることになったのか。そして、彼はどのようにして姿を消したのか――。
以下少々ネタバレ。
クトゥルー(9) (暗黒神話大系シリーズ)
フランク・ベルナップ・ロングの代表的なクトゥルフ神話作品といえば『ティンダロスの猟犬』が挙がることが多いですが、『喰らうものども』も忘れてはならないでしょう。なぜなら、「1.初めてラヴクラフト以外の作家が創作したクトゥルフ神話小説(冒頭にネクロノミコンからの引用がある)」「2.オリジナルのクリーチャーを登場させた」「3.ブロックに先んじてラヴクラフトをモチーフとした人物を作中で登場させ、更にクリーチャーに殺させた」、とクトゥルフ神話の拡張の始まりという点で象徴的な作品だからです。
9集はその『喰らうものども』を始め、ユゴスより来るものが登場する『闇に囁くもの』など7編を収録。
『謎の浅浮彫り』(ダーレス/1948)
休暇で訪れた先の骨董屋でわたしは、不気味な怪物が彫られた浅浮彫り(レリーフの一種)の作品を購入し、こういう類を好む友人で批評家のウェクターにプレゼントする。その後、ウェクターの作品批評のスタイルが豹変したことに困惑したわたしが彼を訪ねると、ウェクターはあの浅浮彫りを手にして――。
『城の部屋』(キャンベル/1964)
友人の依頼で史料集めをしていたわたしは、その途中で友人が住む地にまつわる森に棲む魔物の話を目にする。好奇心からわたしは、その魔物を喚び出した魔術師が住んでいたという城の廃墟を訪れてみることに――。
『喰らうものども』(ロング/1928)
友人で作家のハワードとわたしが宇宙的恐怖についての談義に花を咲かせていると、恐怖に苛まれた感を見せる隣人がやってくる。触手のようなものに襲われたと言って彼が髪を払いあげると、その側頭部には小さな丸い穴が――。
『魔女の谷』(ダーレス&ラヴクラフト/1962)
教師のわたしは、アーカムにある小学校に赴任する。そこで受け持ったクラスの生徒の一人、アンドルーには不気味なところがあり、クラスメイトからも敬遠されていた。家族に家庭訪問し、アンドルーの将来について意見すると、彼らは異常なほどの敵意を見せて、わたしは追い返されてしまう。アンドルーのために調査を始めたわたしは、そこで男に声をかけられて――。
『セベクの秘密』(ブロック/1937)
謝肉祭最後の日、わたしは夕食後の帰り道でエジプトの神官の装いをした男に出くわす。オカルティストである彼に誘われて訪れた彼の屋敷で、彼と同じくエジプトの神官の装いをした人物を目にする。彼と違っていた点は、その人物は、クロコダイルの頭をしていたのだった――。
『ヒュドラ』(カットナー/1939)
交流のあった三人のオカルティストの内、一人が失踪し、二人が変死した事件。関係者の日記や書類から明らかになった、この不可思議な事件の様相とは――。
『闇に囁くもの』(ラヴクラフト/1930)
洪水が発生した地で見つかった奇妙な生物の死骸。それについての寄稿文を書いたわたしに手紙が届く。写真やレコードなどの資料と共に手紙をやり取りしていたが、手紙の主はやがて身の危険を訴えるようになり――。
以下少々ネタバレ。