クトゥルー(8) (暗黒神話大系シリーズ)
クトゥルフ神話に限りませんが、物語において登場人物が危機を迎える契機は概ね「自ら立ち入る」か「巻き込まれる」かのどちらかでしょう。前者は良くも悪くも自業自得の結末を迎えることが多く、後者は巻き込んだ相手が悲劇的な結末を迎えることが多いと感じます。
ところで、現実は巻き込まれるパターンが圧倒的に多いと思いませんか? 特に、今巻に収録されている『電気処刑器』に登場する、正論が通じず、一方的に主張や自論を押し付けてくるような相手に。
8集は異形ではなく狂人を相手にする密室劇『電気処刑器』を始め、ラヴクラフトの傑作『インスマスを覆う影』など7編を収録。
『屋根裏部屋の影』(ダーレス&ラヴクラフト/1964)
遺言により、九十日間にわたって亡くなった大伯父の家に住むことになったわたし。明かりを持ち込んではいけないとされる屋根裏部屋にあったのは――。
『侵入者』(カットナー/1939)
友人で作家のヘイワードに呼び出されたわたしとメイスン。身の危険を訴えるヘイワードの正気を疑うが、鴎とおぼしき甲高い声、蔓を思わせる象牙色の触手、そしてメイスンが目撃した異形の存在がヘイワードが正気であるということ、そして私達の身にも危険が迫っていることを教えていた――。
『屋根の上に』(ハワード/1932)
突然わたしのところに訪問してきたタスマンは、『無名祭祀書』の初版本の入手の協力を要請してくる。提示してきた、身勝手かつ強欲な彼らしくない破格の条件に彼の本気を感じたわたしはその申し出を受け、入手した本を彼に手渡す。本を開いて目的の頁に目を通したタスマンは、目的が財宝探しであることを告げるとすぐに旅立っていった。その数カ月後、彼の呼び出しに応じたわたしは、惨劇を目撃することに――。
『電気処刑器』(カストロ&ラヴクラフト/1929)
社長の命令で不本意ながらも人探しにメキシコに行く羽目になったわたし。しかも道中の電車内で一緒になった男に、自作の器械の実験体として殺されそうになり、製作の経緯を訊いたり書類の作成を勧めたりして、なんとかこの危機から脱しようとするのだが――。
『潜伏するもの』(スコラー&ダーレス/1932)
ビルマ(ミャンマー)の探検隊の一人であるわたしは、たまたま単独行動をしていたために謎の現地人の捕虜にされる。連れて行かれた先にいたのは、同じく彼らに捕らえられていたフォ=ラン博士だった。博士の言によると、彼らは地下深くに封じられている邪神に仕えている種族で、彼はその復活に協力させられているらしい。しかし博士にはこの状況を打開する秘策を持っていて――。
『名もなき末裔』(スミス/1932)
イギリス旅行中に道に迷ったわたしは、偶然にも父の学友であるトレモス卿の屋敷にたどり着く。その晩に卿は急死してしまい、わたしは彼の召使いと共に死体の番をすることになったのだが――。
『インスマスを覆う影』(ラヴクラフト/1931)
好奇心から怪奇な伝承が伝わる街を訪れてみたわたしは、そこで恐ろしい話を聞かされる。しかし、真の恐怖はそこから始まったのだ――。
以下少々ネタバレ。
スポンサーサイト
クトゥルー(7) (暗黒神話大系シリーズ)
ラヴクラフトとブロックは、互いに殺し合うほどの仲でした。
ブロックは自身の作品の中でラヴクラフトをモチーフとした人物を殺した点について、事後許可を彼に求めました。ラヴクラフトは快諾し、更にユーモアたっぷりに「殺害許可証」まで作成したのです。
更にラヴクラフトはお返しとばかりに、後に書いた作品の中でブロックをモチーフとした人物をナイアルラトホテプに捧げました。
そしてラヴクラフトが没した後、ブロックはその続編を書いたのです。
7集は、そんな二人の友好関係から生まれた三作品を含む八編を収録。
『星から訪れたもの』(ブロック/1935)
怪奇小説作家のわたしは、スランプから未知なるものを求めるようになる。そしてとある古書店である魔導書を手に入れるが、それはラテン語で記されていたために判読できず、わたしは友人に助けを求める。友人もまた稀覯書の魅力に惹かれて翻訳にのめり込み、そして記されている呪文を読み上げると――。
『闇をさまようもの』(ラヴクラフト/1935)
とある男性が自室で変死体で発見される。彼が遺した日記と客観的事実を元に明らかになった、彼の最後の数日とは――。
『尖塔の影』(ブロック/1950)
ハーリイはプロヴィデンスで変死した友人の事件を追っていた。事件から数年が経ち、関係者の殆どが死んだか行方をくらましたかしたため、ハーリイが真相を掴むことを諦めかけたその時、デクスターという男が自身の住まいに戻ってきたことを知る。デクスターは友人が死んだ事件において、とある宝石を海に沈めた人物だった――。
『永劫より』(ヒールド&ラヴクラフト/1933)
不審死を遂げたボストンの博物館館長が遺した手記。そこには、博物館に持ち込まれたミイラと、その後に起きた変死事件の真相が綴られていた。一体、博物館の中で何が起こったのか――。
『アッシュールバニパルの焔』(ハワード/1936)
冒険家のスティーヴとアリは、棄てられた古都の奥に眠る骸骨が握る、燃え上がるような宝石の話を聞いてそれを目指す。やがて運良く古都に到着した二人は目的のものを発見するが、そこに因縁のある相手が部下を連れて乗り込んできて――。
『セイレムの恐怖』(カットナー/1937)
作家のカースンが新しく借りた住居にはある魔女の伝説の謂れがあり、周辺の住人から恐れられていた。ふとしたきっかけで地下の隠し部屋を発見したカースンはそこをいたく気に入り、執筆用の部屋として使うことにする。その後、悪夢を見た翌日にカースンは、彼の魔女の墓が荒らされ、死体が消えたことを知らされる――。
『イグの呪い』(ビショップ&ラヴクラフト/1928)
蛇神の伝説が色濃く残る地にある精神病院で、ある異形を見せられたわたしは、院長からその異形にまつわる話を伺うことに――。
『閉ざされた部屋』(ラヴクラフト&ダーレス/1959)
祖父の遺言を果たしに、生前に祖父が住んでいた家を訪れたアブナー。そこにはかつて伯母が軟禁されていた部屋があった。祖父はなぜ自分の娘を恐れ、軟禁したのか。アブナーがその扉を開けたことで再び起き出した、祖父が恐れていた事態とは――。
以下少々ネタバレ。
クトゥルー(6) (暗黒神話大系シリーズ)
ラヴクラフトを敬愛していたオーガスト・ダーレスは彼の死後、ラヴクラフトの知名度向上、そしてクトゥルフ神話の布教に生涯を費やしました。その一環として多くのクトゥルフ神話作品を執筆したのですが、その中にはラヴクラフトの遺稿や創作メモが核となっていた作品も多数ありました。
6集は、そうしたラヴクラフトが原案とされるダーレスの作品、2本の短編と1本の長編を収録。
『恐怖の巣食う橋』(ラヴクラフト&ダーレス/1967)
二十年前に失踪した大叔父の家に移り住むことになったわたし。地元の雑貨店でその旨と自身が大叔父の身内であることを店主に伝えると、彼はあからさまに嫌悪感を示す。家の掃除と整理の最中に謎の地下空間を発見したことを契機に、大叔父の失踪の謎を探り始めたわたしは、川の側に石造りの橋の残骸を発見する。その橋桁の一本には奇妙な五芒星形の印が刻み込まれていて――。
『生きながらえるもの』(ラヴクラフト&ダーレス/1954)
古物収集家のわたしは、プロヴィデンスにある古い館を一目見て気に入り入居を決める。興味本位でかつての館の持ち主の経歴を調べると、どうやら不老長寿の研究に熱心に取り組んでいたようで――。
『暗黒の儀式』(ラヴクラフト&ダーレス/1945)
かつての先祖の土地に移り住んだデュワート。興味本位から先祖のことを調べるうちに、先祖の周辺で奇妙な殺人事件や失踪事件がが頻発していたことを知る。先祖の意味不明ながらも深長な遺言に記されていた森の中にある石塔を、遺言に背いて手を入れてから何者かの視線を感じるようになり、更に過去に起きた事件を彷彿とされる殺人事件が再び起きたことから、デュワートは従弟のベイツに助けを求める手紙を出す。
しかし、いざベイツが訪れると、デュワートは人が変わったように彼を早く帰そうとしてくる。その豹変ぶりを疑念を感じたベイツはデュワートが集めた資料に目を通し、塔が何らかの禍々しい儀式に使われていたことを理解する。そしてついにデュワートが塔で異界の怪物を召喚する様を目撃したベイツは、その道に詳しいミスカトニック大学のラファム教授に助けを求める。
ラファム教授は全てを終わらせるために入念な準備をし、助手のフィリップスを伴って彼の地に向かう。そして彼らが目撃した、恐るべき外世界の存在とは――?
以下少々ネタバレあり。