見た目は普通のアップル・ジュースだ。ノンアルコールとはいえ初めてのカクテルだったので、恐る恐る一口飲む。
「……!!」
甘いだけのアップル・ジュースにレモン・ジュースの酸味が加えられたことで林檎本来の甘酸っぱさが、更に炭酸が加えられたことで爽やかさが増している。
「おいしい、すごくおいしいです――!!」
掛け値なし、心の底から、おいしい、という感情を込めて言った。黒川さんはニッコリと微笑んで、それはようございました、と言った。
「次は、プッシー・キャットです。オレンジ・ジュース、パイナップル・ジュース、グレープフルーツ・ジュース、グレナデン・シロップを併せてシェイクしたものです」
いただきまーす、と裕子が、ぐいっ、とグラスを傾けた。
「ンーー!!」
目を丸くする裕子。飲んだ時の私もこんな顔をしていたのだろう。二口目からは、なくなるのを惜しむかのように、ちびり、ちびり、と飲み進めた。
「お待たせしました、ゴッドマザーです」
薄い琥珀色で満たされたグラスが綾瀬さんの前に置かれた。グラスを口に運ぶ動作にぎこちなさがない。飲み慣れているのだろう。
「黒川さーん、ゴッドマザーがあるってことは、ゴッドファーザーっていうカクテルもあるんですかー?」
裕子の問いに、透明な液体と小さな果実が入った逆三角形の小さなグラスを東里さんの前に置いた黒川さんが、ええ、と答えた。
「ゴッドマザーのベースはウォッカですが、ウィスキーをベースにするとゴッドファーザーというカクテルに、ブランデーをベースにするとフレンチ・コネクションというカクテルになります。ちなみに今の二つのカクテルの名称は、どちらも映画のタイトルからとったものですね」
「へー、色んな種類があるんですねー」
「まったくその通りで。有名無名を含めて少なくとも300以上、混ぜる材料、量、方法にも基本的に制約はありませんから、今現在でも新しいカクテル・レシピが生まれ続けていますよ」
「黒川さんオリジナルのカクテルもあるんですかー?」
裕子が訊くと黒川さんは苦笑して、
「いやあ、私は――」